• 052月
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     事が起きて3日も経つと激情にかられることもだいぶなくなってきた。落ち着いたというよりは疲れて麻痺してきている。昔なら大酒飲んで泣いたり喚いたり暴れたりして発散できたんだが、どうもそういう気分にはなれない。こんなふうに悲しみを溜め込んでゆくのはまずい気がする。

     お前はウェブアーカイブで昔の自分の日記を読むのが好きだったね。思い出話をするのも好きだった。でも俺はこれまで過去というものに全く興味がなかった。それどころか思い出に浸るお前を馬鹿にしていた。済んでしまった出来事を振り返って何になると思っていた。そんな俺がお前の昔の日記を読み漁っている。そして長らく忘れていたことを思い出した。

     以前のお前は日常の中で、ほんのささやかな楽しみをいくつも見つけていた。三日坊主に終わることも多かったが、次から次へといろんなことにチャレンジしていた。なんてことのない風景にも感性を研ぎ澄ませて感動していた。そして、それを俺と共有したがった。二人の人生を豊かにしようと努力していた。自分は何の取り得もない空っぽの人間だと卑下していたが、そんなことはなかった。対人恐怖症と言っていいほど人と接するのが苦手で、時には外出するのもままならなかったのに、お前は心療内科に通いながらも仕事を探し働いた。何度も挫折して、泣いて、それでも立ち上がった。底抜けに明るくて無邪気で包容力があって感情が豊かで頑張り屋で、そんなお前の性質に俺は随分と安らぎを得て助けられていた。

     俺は昔からお前を否定してばかりいたように思っていたが、実際はそうじゃなかった。頑張っているお前をねぎらい、励まし、応援したことも少なからずあった。俺もまんざら悪い面ばかりではなかった。でも、いつしか俺はそうすることを忘れてしまった。どんどん厭世的になって鬱状態になり、何事も諦めて希望を見出せなくなった。投げやりになった。俺は変わっていった。お前のことも変質させてしまった。しかし自分がまずい状況にあることは自覚していたから、この2年ほどか、お前が些細ななことに喜んで俺に報告してきたら、努めて大きく反応するようにしていた。失敗することも多かったが、なるべく寛大な気持ちで穏やかに接しようと努力していた。一応俺も、それなりに頑張っていた。

     お前が昔の日記を度々読んでいたのは、あの頃の気持ちを取り戻すためでもあったのではないか。思い出に浸る効能みたいなものを、お前は経験的に知っていたのではないか。そうして更に気持ちを奮い立たせて心機一転、また明日から頑張ろうと。俺はその効能を、ここ数日で初めて知った。

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