042月
お前専用の本棚の奥から、小さなノートが見つかった。9年ほど前にお前が旭川からこちらに出てきて間もない頃、つまり俺たちが一緒に暮らし始めた頃に買ったものだ。中には走り書きのようなくちゃくちゃの汚い文字で、お前が以前勤めていた夜のお店をやめてから2ヶ月も仕事が決まらないのはなぜか、その問題点と改善策が、いくつも箇条書きにされている。
問題点は、“働かなくても最低限の生活ができるからついつい”とか、“○○(俺)がまた許してくれると思って甘えてしまう”とか。改善策は、“自分をダメだと決め付けない”とか、“ポジティブに考える”とか。更に、“このままでは○○に愛想を尽かされてしまう。それは絶対に嫌だ!”、“○○にしてもらうだけじゃなく、○○にしてあげられることを見つける!”とも書いてある。この頃はまだ、お前の愛情は真っ直ぐに俺へと向けられていた。
今度はウェブアーカイブでお前の昔の日記を読んだ。やはり8年から9年前のものだ。そこには読んでいて狼狽してしまうような、俺とお前の赤裸々な日常が記されていた。“私と彼氏は事あるごとにキスをする”とか、“昨日の夜は激しかった”とか、性生活の詳細まで書かれていた。その頃のお前は既に働いており、公私共に充実していて活力が漲っている様が見て取れる。そして俺も、お前に対して真っ直ぐに愛情を向けていた。
お前のノートや日記を読んで、俺たちにもこんな時期があったのかと驚き、すっかり忘れていたことに愕然とした。ここ1~2年の俺たちときたら、セックスレスどころかキスもろくにしていなかった。俺は不機嫌そうに黙り込んでいることが多く、お前はそんな俺に居心地の悪さを感じていた。考えてみれば、俺たちはとっくにバラバラだったんだ。長い年月が経てば甘いムードが失われてゆくのもいたしかたないが、それしても俺たちは冷めすぎていた。というより、俺が二人の間に冷え切った空気を作り上げてしまっていた。お前が出てゆく結果になったのは必然だ。
ノートにはまだ続きがある。お前は「心がけること」として、“姿勢をよくする”、“いつも笑顔でいる”、“いつも綺麗でいる”など、女を磨くためのあれこれを書いている。そして最後に、「自分のやりたいこと」として、”○○と一緒にいる。ゆくゆくは結婚したい。子供を産みたい。”と締めくくっていた。その時点で既にお前がそう思っていたなんて、俺は初めて知った。気づいてあげられなかった。俺は何を見ていたんだろう。
042月
なんだか、やれることは全てやり尽くした感がある。お前が残したあらゆる痕跡・情報を偏執狂的に一つ一つあたってみても、何も出てこなかった。さすがにもう疲れた。
お前への思いのたけをいろいろと書いたものの、所詮は一方通行だ。お前から何らかのアクションでもあれば、それが燃料投下となるんだろうが、そうでない限りネタ切れも時間の問題だろう。
このまま時だけが過ぎたら、お前の思い出もいずれ薄れゆくのか。こんなにも取り乱している俺が1年後には、そういえばあいつは元気にやってるかな、と穏やかな心持ちでお前を思い出すんだろうな。そのときお前は、もしかしたらお腹を大きくしているかもしれない。今はまだ想像すると複雑な気持ちだが、お前が孤独になっているよりずっといい。不幸になっているよりずっといい。
お前よりも前に付き合ってきた何人かの女が今、不幸だろうと死んでいようと全く興味がない。これまで俺は、別れた女の幸せを願ったことなど一度もない。知ったことではないのだ。でもお前の場合は違う。もしかしたら俺にとってお前は、初めて本気で好きだった人なのかもしれない。それとも単に、お前に対する罪悪感の裏返しなんだろうか。
これからの俺の人生を想像してみる。たぶん俺にはもう恋人はできないだろう。別に一時の感情で言うのではなく、たぶんそうなる。また誰かと知り合って関係を深めてゆくプロセスを経るなんて、そんな面倒なことは金輪際ごめんだ。やがて俺は歳をとってゆき、お袋が死に、親父が死に……。俺はこの家を引き継いで一人で暮らす。たまに弟夫婦や甥っ子姪っ子が遊びに来るも次第に疎遠となる。そして、酒と煙草という悪習がたたり、そう遠くない未来に俺も死ぬ。弟夫婦が葬式を出して、俺はわけの分からない戒名をつけられる。身体は焼かれ小さな骨となり、骨壷にコトッと落とされる。そのコトッという音だけが、俺がこの世に残す最初で最後の、唯一のものだ。あとは親父とお袋が夫婦水入らずで入っている墓へお邪魔するのだ。お前はそんな末路を寂しいと思うか? 俺はシンプルで良いと思う。
042月
こうして駄文でも連ねていないと自分を保てない。他に熱中できることがあればいいが何もない。映画を観る気にはなれないし、気分転換にとゲームを少しやってみたが楽しくなくてすぐやめた。このブログを最古の記事から読んでみたら、むしろ苦痛を感じて続かなかった。なぜならお前の日記には、辛い本音がほとんど書かれていないからだ。差しさわりのないことばかり書いているからだ。
実際のお前はずっと悩んでいただろう。主に俺との関係のことで。俺が何かにつけて否定的だから、お前は自分の存在まで否定されているように感じていただろう。30歳になろうという去年は更に、結婚や出産も強く意識するようになって、悩みは深まるばかりだったろう。なのにお前はそんなことをおくびにも出さず、真意を隠して淡々と、書いても問題のない穏やかな日常の風景を羅列した。
それはなぜだか分かってる。このブログが俺の目に触れるからだ。もしも本音など書こうものなら俺に厭な思いをさせるのではないか、俺に何か言われるのではないか、そう思ったからだ。だから俺はお前の日記を読むと辛くなる。お前の日記の向こうに、お前を抑圧する俺の姿が見えるから。恐怖政治のごとく手法でお前を雁字搦めにしてきた、俺自身の醜い姿が見えてしまうから。
お前は時々、本音をぶちまけるべく、他のあちらこちらにブログを開いた。それらにどんなことが書かれていたのかは、読ませてもらえなかったので分からない。ただ一つ、ミクシィの日記だけはお前の手違いで俺の目に触れることとなった。そこには、「一緒に暮らしているパパがいまーす。エッチはずうっとしてませーん」などと書かれていた。これにはいろんな意味で落ち込んだ。
042月
丸二日メシを食っていない。睡眠は3時間。更に、とうとうゴミまで漁ってしまった。お前がどこに行ったかを示すわずかな手がかりがないかと思って。その瞬間をビデオに撮って見たら、さぞかし俺はおぞましい姿をしていただろう。いよいよ限界か。で、手がかりはやっぱりなし。
でもちょっとした収穫というか、そこまでではないが、少しだけ分かったこともある。お前は先月下旬、新たなバイト先に面接を受けに行った。帰ってくると、即日合格して2月2日から勤務だと言った。確かにお前が件のファミレスの名前と日時を記したメモが見つかった。少なくともバイトを探そうと思ったことは事実だったんだろう。しかし本当に面接を受けたのかは分からないし、合格はしていない。ということは、先月下旬の時点で2日に出て行くことは決めていたわけだ。数日後、俺たちは映画を観に出かけて食事をとった。あの時お前はどういう気持ちでいたのかな。楽しそうに見えたのは錯覚だったのか。
もう一つ見つけたものがある。そういえばこんなものがあったと俺も思い出した。その名も365日貯金。切り取ったノートに365個のマスが書いてあり、その中に1から365までの数字がふってある。毎日1円から365円までのいずれかの金額を貯金して、該当する数字のマスを塗りつぶすというものだ。一年パーフェクトを達成すれば66795円たまる計算だ。お前がこれを用意したのは1月の10日あたりだった気がする。その時点でお前は、今年もここで暮らすつもりだったんじゃないか。
バイトの件と365日貯金を照らし合わせて考えると、お前の心境に大きな変化が訪れたのは1月中旬だ。その時期、いったい何があった? お前に決意をさせたものは何だったのか。お前は手紙に、たぶん子供は無理だと俺が言ったとき、もうだめだなと思ったと書いてある。それから数ヶ月経ったわけだが、その間お前はなかなか決心がつかずにいた。それがなぜ1月中旬なのか。全く思い当たる節がないんだ。一日一日を俺はもっと大切に生きるべきだった。もっとお前を気にかけるべきだった。呆けている場合ではなかった。
最後に身体を重ねた、あの久しぶりの夜に、いっそ子供ができてしまえば良かったと、無茶なことを考えてしまう。
042月
お前が新たにアルバイトを始めると言っていたファミレスのチェーン店には、お前の出奔に気づいた直後に電話して、お前の話が嘘だったことを知った。もしや同じチェーン店の別の店舗にいるのではないかと思い電話を入れてみたが、5件ほど当たってみたところでやめた。さすがに、そんなばれやすい嘘はつかないよな。
その後、最近までお前が働いていた職場に電話をかけた。いくつかあるセンターの一つにでまかせでかけて、お前の名を告げたら、なんと今いるというではないか。どきどきしながら待っていたら、出てきたのは別人だった。一瞬、かつがれているのか、俺が知っていたお前の名前は偽名だったのか、などと突拍子もないことを考えたら、何のことはない、同姓同名の別人だった。気味悪がっている相手に対し、俺は丁重に事情を説明したら理解してくれて、別のセンターの番号をいくつか教えてくれた。早速かけてみたら、お前はそこで先月末まで働いていたと聞いた。2月1日もお前は勤務だと言ってでかけていたが、それは嘘だったと分かった。お前の口から何度か名前があがっていたパートさんを呼び出してもらい、何か知らないか尋ねたが収穫はなし。最終的に若い男性社員が応対してくれたのだが、これが未だに引っかかっている。
お前は俺に、社員の男性はおじさんばかりで、一人だけ若い人がいると言っていた。そして、その男こそお前が昨年の夏にデートを画策していた相手だった。俺は電話口で男の妙に明るい声を聞きながら、たぶんこいつだと思った。
お前が毎月末、職場から貰ってきていたシフト表を、経費削減のために個人への配布はされなくなったという理由で貰ってこなくなったのが、ちょうど夏あたりからだったように思うのだが、違っただろうか。以来、いつが休日なのかはお前の口頭による説明だけだった。更に、それまでの勤務ペースが2~3日働いて1日休むというものだったのが、6日連続勤務なんていうこともざらになった。お前は本当に、仕事に行っていたのか? 実は先の男性社員と過ごしていたのではないのか?
ろくでもない想像ばかりが膨らんでいやになる。仮にこの想像が当たっているとしても、それはそれとして、俺が原因でお前の愛情が薄れた事実は何ら変わらないじゃないか。馬鹿げてる。
042月
こんなとき、文章を書くしか気持ちの表現方法がないのは辛い。実際は書きながら何度も中断し、感情のたかまりを抑えきれずに声を上げて泣くこともあるのに、できあがった文章は妙に落ち着き払っていて、全て作り事のようにも見えてしまう。どこまでが本気か分からず嘘くさい。もしもお前がこの文章を読んだとしても、俺の気持ちはどこまで伝わるだろう。
お前は手紙の中で、3月に切れることになっているこのレンタルサーバとの契約は更新しないからブログも消えると書いているが、俺は契約を更新するつもりだ。お前の人生は遁走の繰り返しで、そのつど人と縁を切り、物を捨て、行方をくらましてきた。お前はそれで人生を何度もリセットしたつもりでいるかもしれないが、残されたものは簡単にリセットなどできない。生きるという事は、あちこちに足跡をべたべたと残すことだ。足跡を残したら、責任を持て。ここはお前と俺が唯一繋がる可能性のある場所であり、お前の思い出だけでなく、俺の思い出もたくさん詰まってる。そう簡単に消してたまるか。消されてたまるか。
042月
もう二人とも限界にきていたと思う――お前の手紙にそう書いてある。
確かに俺たちは二人ともピリピリしていた。いつも呑気なお前と、それを我慢できない短気な俺。何事にも雑で抜けているお前と、それを叱責する俺。結婚・出産を望んだお前と、煮え切らない俺。
二人が心から楽しく過ごせたのは、もう随分前のことだ。互いに求めているものを与え合うことができず、俺たちは疲弊していった。それでも誤魔化し誤魔化し、自分の気持ちに蓋をして、どうにか日々を過ごしていた。皮肉なことに最後の夜、俺たちはある動画を観て、久々に二人して腹を抱えて笑ったっけ。
今さらになって思うのは、お前の欠点はお前の長所でもあったのだし、何も俺はいちいち目くじらをたててお前を責める必要などなかった。何をするにもスピードが遅い? バッグの中がいつもゴミだらけ? 物入れや棚から取り出したものをそこらへんに放って元に戻さない? すぐに物を壊したり失くしたりする? そんなことがいったい何だというのだろう。全く、どうでもいいことじゃないか。
二人はセックスレスに陥った。主な原因は駄目な自分を嫌悪していた俺にある。気分の落ち込みで、そんな気持ちにはなれなかった。お前の求めに応えないことで自己嫌悪は深まった。最悪なことに俺は、こうなった原因はお前にあると言った。お前の欠点や、お前が俺に対してしてきたことをあげつらい、だからそんな気にはなれないのだと自己防衛のための卑怯な嘘をついた。ますます自己嫌悪が募った。悪循環だった。
お前は努力した。それはもう充分に。俺を苛立たせないよう、短所を克服すべく健気に頑張った。自分に磨きをかけようと、ファッションや化粧などに気を遣った。そうすれば俺の気持ちが動くと信じて。なのに俺は認めなかった。正当に評価しなかった。あまりにも理不尽で、酷い仕打ちをしてしまった。
たらればの話をしても無意味なのは分かってる。それでも今は想像せずにいられない。もし俺がお前に口うるさく言わなければ、セックスレスの原因になった悩みを正直に打ち明けていれば、お前の頑張りを評価して最大限の賛辞を贈っていれば、もっとお前に手放しの愛情を注いでいれば、そして、お前と家庭を作り上げる夢に真剣に対峙していれば、いつからかお前に感じていた、“もうお前の気持ちは俺に向いていないんだろう”という疑念を、俺は抱かずに済んだだろうか。
時間を巻き戻すことができればいいと、本当に思う。
042月
さすがに疲れていた。3時間ほど眠ることができた。
寝付くまでの小一時間、いろんなことをぐるぐると考えた。まず最初に感じたのは馬鹿ばかしさだった。なぜ俺は、俺だけを悪者に仕立て上げようとしているのか。確かに俺には至らない点が多々ある。でもそれはお前も同じだ。俺とお前は二人とも、欠陥だらけの人間じゃないか。確かに俺は罪深いことをしたと思う。でもお前にだって罪はある。俺が罪の重さに打ちひしがれているからと言って、お前の罪が帳消しになるわけじゃない。なのに俺はお前をことさら美化し、可哀想な被害者として祭り上げてしまった。冷静さを欠いて盲目的になっていた。
次に感じたのは怒りだった。お前は俺を何度も欺き裏切った。裏で画策し、こそこそと逃げ出すように家を出たのは、もう何回目だ。今回だって、仕事に行くと嘘を言い、面接に行くと嘘を言い、初出勤だと嘘を言い、そのたびに荷物を少しずつ持ち出して、お前は着々と準備を進め、出てゆく直前まで何事もないようにふるまい、俺にキスをし、一緒のベッドに寝て、いつものように行ってきます、行ってらっしゃいと言い、お前は忽然と姿を消した。俺が望みを叶えてあげられなかったせいで、お前には辛い思いをさせてしまっただろうが、しかしここ数日間、お前が感じていたのは辛苦よりもむしろ、高揚や歓喜ではなかったか。最後の夜に、どういう風の吹き回しかお前は俺に酒のつまみを買ってきた。なんでこんなこと? たまにはいいかと思って、と会話を交わしたその瞬間のお前の笑顔を、俺はなぜだか覚えてる。あれはささやかな贖罪のつもりだったのか。それともなけなしの感謝の意か。まんまと騙されている間抜けな俺を見て、お前は密かに達成感を満たしていなかったか。こんなに人を馬鹿にした話があるか。
次に感じたのは憎しみだった。お前は俺と付き合っていきたいと言った矢先、元彼のところに戻るということを繰り返した。そこではしっかり男女の関係も結んでいた。俺の男友達を紹介すれば、好きになってしまったかもと言い出す始末。そして去年の夏、職場の同僚と秘密裏にデートする計画を立て、しかし抜けているお前の杜撰な計画はすぐに俺の知るところとなった。俺が大のお気に入りとしていたお前お手製のスモークチキンを、職場のパートのおばさんにも振舞うと言ってお前は持ち出したが、実はその男の酒のつまみになっていた。以来俺は、その料理を食べることができなくなった。そんなもの、食べられるか。そして今回、ここからは憶測だが、やはりお前は誰か他の男と一緒にいるんだろう。昔、俺の家に転がり込んだように、今度もまた誰かの家に転がり込んだのだろう。保証人のいないお前が独力で新たに家を借りたとは、経済的にも物理的にも考えにくい。なかなか仕事が見つからない今のご時勢を斟酌すればなお更だ。友人などおらず、実家や妹君の、今度の件は知らなかったという言葉に嘘があるとも思えない。やはり誰かの助力を借りているのではないか。そもそもお前には後ろ暗いところがあるからこそ、正々堂々とこの家を出ることができなかったんじゃないのか。俺にすっぱり三行半を突きつけて、身辺を整理し、それが一度では無理ならこれからの所在を明らかにした上で出て行けば良かったのだ。お前は今、過去を断ち切り、新たな生活に希望を見出し、安らぎと温かみと自由を味わっているかもしれないが、お前がいた頃とほぼ変わらないこの部屋で、俺はこれからもお前の幻影を見ながら過ごしてゆくことになる。ほんの二日前までは、こうしてPCの前に座り、ふと振り返るとお前の寝顔があった。今もまだ、つい振り返ってしまう。しかしお前はいないのだ。まるで小旅行にでも出かけるようにごくわずかな荷物だけを持ち出し、あたかも生活拠点はまだここにあるかのごとく思わせる、お前のにおいの充満するこの部屋に、しかしお前はいないのだ。なぜこんな残酷なことをしてくれた。
次に感じたのは自己嫌悪だった。お前が黙って家を出たり、他の男に目を奪われたりしたのは、俺がそうさせてしまったところが多分にある。お前が本音を言いにくい状況を俺は作り、お前の気持ちが揺らぐほど俺は失望させてしまった。結局はやっぱり俺自身の至らなさ、不甲斐なさが原因なのだ。なのに俺は、またお前を責めてしまった。お前の幸せを願っているのは本当なのに、お前のことを思うと胸が痛んで発作的に嗚咽が漏れそうになるのに、お前に逢いたいだけなのに、お前に謝る機会をたった一度でいいから与えて欲しいだけなのに。情けないと思われようが、女々しいと思われようがかまわない。俺を許してくれ。
042月
情緒不安定。食欲なし。煙が主食となりつつある。胃が痛む。うずくまる。やけに寒い。読んではもらえぬウェブログを、寒さ堪えて書いてます。
こうして頻繁に書きなぐるのも、そろそろ潮時かと思う。現時点での思いのたけは、もうほとんど書いた気がする。これ以上続けても、悔恨の情と懺悔のループになるだろう。これから日一日と過ぎてゆく中で、また突発的に思いをぶちまけたくなることはきっとある。今日は泣いたり喚いたり、色々と吐き出したことで比較的楽になれたけれど、お前がいなくなってしまった実感は、これからますます強くなるだろうし、ピークがいつごろ訪れるか分からないが、そのときは辛さをここにぶつけるかもしれない。などと言いながら、30分後にはまた更新しているかもしれない。今は自分の気持ちがどう動いてゆくのか見当もつかない。
本当を言うと、お前は二度とこのブログを読まないんじゃないかという気がしてる。少し冷静になった頭で考えると、そんな気がする。お前は俺だけでなく、俺と過ごした9年間で手に入れた様々なものや、この間に培われたお前自身の価値観さえも、ほとんど丸ごと捨て去ろうとしているように思うのだ。この9年間と完全に決別して、生まれ変わろうとしているように思うのだ。ともすれば名前まで変えかねない勢いで。だとしたら、俺がこのブログに何かを書き込む意味はない。俺が書く文章は、ただお前だけにあてたものなのだから。
いや、待てよ。その割りにお前は、例の白い本――さまざまな思い出の切り張りや、その時々のお前の心情などを綴った日記帳のようなもの――は持ち出しているじゃないか。その本の中には俺に関する思い出も無数に存在するのにだ。いったいお前はどういう基準で持ち出す物の取捨選択をしたんだ。シャンプーは持ち出してアクセサリーを残したのはなぜなのか。大半の化粧品は持ち出してマニキュアを残したのはなぜなのか。俺の痕跡を消したいのか消したくないのか。それとも単に白い本は、ここに置いてゆくのが嫌だっただけで既に処分したのだろうか。
俺にはお前がさっぱり分からない。9年間も一緒にいたのに、お前が何者なのか、本当の意味では分かっていない。俺が分かろうとしていなかっただけなんだろうか。お前はいったい誰なんだ。知りたいと思っても、もう後の祭りだが。