彼女が出て行って以来、俺は数通のメールを送った。読まれる可能性は低いと思っていたが、彼女は読んでいた。そして今日、返事が届いた。
彼女からのメールは何通にも渡った。そこには俺との生活の中で彼女の気持ちにどういう気持ちの変化があったのか、どういう経緯でここを出てゆき、今どう思いどんな生活を送っているのかが書かれていた。
概要はこうだ。
俺に対する様々な不満と、結婚・出産に憧れる気持ちとが重なり、他の男に目を向けるようになった去年の夏ごろ、彼女はバイト先で知り合った男と付き合い始めた。相手がバイト先の男だったこと、勤務表を家に持ち寄らなくなった理由など、俺の想像通りだった。
彼女は俺と、別の男との、二重生活を続けた。向こうでどう過ごしたのか詳細は知らないし、正直、知りたくもない。ただ、結婚を申し込まれたこと、それを承諾したこと、向こうの親とも何度か会ったことを聞いた。
1月の中旬、俺が酒癖の悪さを露呈した夜、もう我慢ならなくなった彼女は男にメールを送った。それが決定打となり、男は彼女と暮らす部屋を早速見つけ、それから引っ越す準備などをすすめた。彼女はそれから少しずつ自分の持ち物をバイトのたびに男に渡し、2月2日、この家を出た。役所で転出届を提出し、保険証を書き換えて。
新居は綺麗なマンションの一室。最初は調度類がほとんどなく、ヒーターもないなか、彼女は掃除などをして過ごした。徐々に100円ショップで小物を買い揃えながら、彼女は男のために夕食を作り、弁当を作り、“以前のバイトを続けながら”、生活しているという。どうやら俺は彼女のバイト先の連中にも担がれたらしい。
俺という人間に見切りをつけた彼女であったが、いざ男との暮らしが始まると、違和感を多分に感じるようになった。聞けば、男は穏やかな人間で怒ることがないそうだ。まあ当たり前だろう、暮らし始めたばかりなんだから。しかし、それとは別に、男のだらしさな、無神経さなどが気になり始めた。分かってくれないという不満を彼女は感じている。
このあたりでメールでの応酬が面倒になったので、電話をしてくれと頼んだ。電話が来た。
謝った。不思議なもので、実際に彼女と話をすると、先日までの湧き上がる罪悪感に押し潰されるような辛さはなく、ただしょんぼりと謝ることしかできなかった。それからしばらく話をした。彼女の気持ちが揺らいでいることは分かった。ここぞとばかりに戻って来いとも言ったが、男への不満を口にする彼女に、なぜか頑張れと言ってしまった。俺が何をしたいのかよく分からなかった。とにかく幸せな決断をして欲しいと思った。一時の感情に流されるのではなく、もっと長い目で見て想像して欲しいと思った。その男と本当に結婚したいのかという問いに、彼女は分からないと答えた。当然だろうと思う。彼女はまだ、彼のことをほとんど知らないのだ。だから、男のことをちゃんと見ろ、俺との比較ではなく、そいつ自身を見ろと言った。言ってるそばから後悔した。
それからはよく覚えていない。とにかく俺は、俺たちがやり直すために必要な互いの気持ちの入れ替え、生活の改善など、あれこれを話した。彼女の協力が必要だとも言った。結果、彼女は、俺とはやっていけないという決断を下した。俺は了承し、彼女の幸せを願って電話を切った。
これで、全部、終わった。
もうここに何か書く理由はない。俺は彼女も自分も解放することにした。
なめらいと (完)
追記:山本葵の現在、そして今後の動向に関しては、交際相手のサイト等でいずれ明るみになる。URLは以下のとおり。
